進行前立腺がん治療は、いま大きく変わろうとしています

「薬を順番に使う」から「患者さんに合わせて治療を組合わせる」時代へ
進行前立腺がんの治療は、ここ数年で大きく進歩しています。
2026年に 医学雑誌「BMJ(英国医師会雑誌)」に掲載されたレビュー「Advances in systemic therapies for advanced prostate cancer」では、進行前立腺がんに対する最新の全身療法を幅広く整理し、現在の治療がどのように変化しているのかが紹介されています。
ADT(アンドロゲン除去療法)だけの時代から、治療を組合わせる時代へ
以前、転移性前立腺がんの治療では、男性ホルモンを抑えるADT(アンドロゲン除去療法)が治療の中心でした。
しかし現在では、ADTだけで治療するのではなく、
ADT+ARPI(アビラテロン、エンザルタミド、アパルタミド、ダロルタミドなど)
ADT+化学療法
ADT+ARPI+化学療法
など、複数の治療を組み合わせる方法が広がっています。
特に転移性ホルモン感受性前立腺がん(mHSPC)では、患者さんの病気の広がりや状態に応じて、できるだけ早い段階から治療を強化するという考え方が重要になっています。
「去勢抵抗性」になったら、次の薬を選ぶ
前立腺がんは治療を続けているうちに、男性ホルモンを抑えても病気が進行する「去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)」になることがあります。
ここでも治療は大きく変わりました。
現在は、「CRPCになったらこの薬」という単純な選択ではありません。これまでにどの治療を受けたのか、遺伝子異常があるのか、PSMAを発現しているのかなどを確認し、その患者さんに合った治療を選ぶことが重要になっています。
遺伝子を調べて治療を選ぶ「精密医療」
進行前立腺がんでは、がんの遺伝子情報を調べることも重要になっています。
特にBRCA1/2などのDNA修復関連遺伝子(HRR遺伝子)に異常がある患者さんでは、PARP阻害薬という治療薬が選択肢になります。
つまり、「前立腺がんだから、この薬」ではなく、「この患者さんのがんには、どのような特徴があるのか」を調べて治療を選択する時代になってきています。
PSMA標的放射性リガンド療法も重要な選択肢に
この変化の中で、特に注目されているのがPSMA標的放射性リガンド療法(PSMA-RLT)です。
PSMAは、前立腺がん細胞の表面に多く発現することがあるタンパク質です。PSMAに結合する薬剤に放射性核種を結びつけることで、PSMAを発現しているがん細胞を見つけ、そこへ放射線を届ける、という治療が可能になります。
代表的なのがルテチウム177(Lu-177)を用いたPSMA-RLTです。
VISION試験などによって有効性が示され、現在では進行前立腺がんに対する重要な治療選択肢の一つとなっています。
さらにPSMAfore試験では、これまでの治療を受けた患者さんに対して、Lu-177-PSMAが従来のARPI変更よりも画像上の無増悪生存期間(rPFS)を延長しました。
ここから見えてくるのは、PSMA-RLTが「治療の最後に行う治療」から、より早い治療ラインへ移っていく可能性です。
これからは「どの治療を使うか」だけでなく「いつ使うか」が重要に
進行前立腺がん治療の大きな課題は、これからますます治療の順番(sequencing)になると考えられます。
例えば、ARPI → 化学療法 → PSMA-RLTとするのか、ARPI → PSMA-RLT → 化学療法とするのか。
また、PSMA-RLTの中でも、Lu-177 → Ac-225など、異なる放射性核種をどのように使い分けるのか。
こうした「最適な治療順序」は、まだ研究が続いている重要なテーマです。
PSMAだけではない。次の標的へ
もう一つ注目したいのが、新しい治療標的の開発です。
現在はPSMAが大きな注目を集めていますが、研究はPSMAだけにとどまりません。
新しい細胞表面標的、新しい放射性核種、PARP阻害薬、抗体薬物複合体(ADC)、新しいホルモン関連薬など、さまざまな治療法が開発されています。
つまり、これからの前立腺がん治療は、「一つの薬で治療する」のではなく、「患者さんのがんの特徴を調べ、複数の治療法を適切なタイミングで組み合わせる」方向へ進んでいくと考えられます。
Right treatment, right patient, right time
今回のレビューを読んで強く感じるのは、進行前立腺がん治療の考え方そのものが変わっていることです。これから重要になるのは、どの治療があるかだけではありません。
誰に、どの治療を、いつ、どの順番で使うのか。
PSMA-PETなどの画像診断、遺伝子検査、腫瘍の性質を組み合わせながら、一人ひとりに最適な治療戦略を考える。
進行前立腺がん治療は、まさに「個別化治療(precision medicine)」の時代に入っていると言えるでしょう。
参考資料:


