がん治療後の「物忘れ」や「頭がぼんやりする」はなぜ起こる?

― がん関連認知機能障害(CRCI)について
「最近、物忘れが増えた」「集中できない」「頭がぼんやりして、以前のように考えられない」がんの治療を受けた患者さんから、このような訴えが聞かれることがあります。
これまで「ケモブレイン(chemo brain)」や「ケモフォグ(chemo fog)」と呼ばれてきた症状ですが、現在では、がん関連認知機能障害(Cancer-Related Cognitive Impairment:CRCI)という、より広い概念で捉えられています。
2026年にASCO Educational Bookに掲載された総説では、CRCIの評価と管理について、最新の知見がまとめられています。(ASCO Publications)
「抗がん剤のせい」だけではありません
CRCIは、抗がん剤だけが原因で起こるわけではありません。
がんそのものや、化学療法、ホルモン療法、放射線治療などの治療に加えて、
疲労や貧血
痛み
不安や抑うつ
睡眠障害
他の病気や加齢
運動不足や生活習慣
など、さまざまな要因が重なって生じると考えられています。(PubMed)
そのため、「治療の副作用だから仕方がない」と単純に考えるのではなく、何が認知機能に影響しているのかを一つずつ確認することが大切です。
どのような症状が起こる?
CRCIでは、特に次のような認知機能が影響を受けやすいとされています。
記憶、注意・集中力、情報処理の速さ、物事を計画・整理する力(実行機能)
ただし、その程度や現れ方には個人差があります。
また、がん患者さんの認知機能障害の頻度は、がんの種類や評価方法によって大きく異なりますが、報告では25~75%とされています。(ASCO Publications)
どうやって調べる?
CRCIの難しいところは、患者さんが「認知機能が落ちた」と感じていても、一般的な認知機能検査では異常がはっきりしないことがある点です。
そのため、まずは患者さん自身が感じている症状や、日常生活への影響を確認します。必要に応じて、認知機能に関する質問票や、心理士・神経心理士による詳しい検査を行います。
一方、MMSE(認知症のスクリーニングなどに使われる検査)は、CRCIの評価には適していないとされています。(ASCO Publications)
治療は「薬」だけではありません
現在のところ、非中枢神経系のがん患者さんのCRCIに対して、特定の薬物治療を推奨できる十分なエビデンスはありません。
一方で、認知機能をサポートする方法として、
認知トレーニング
認知リハビリテーション
メモやスマートフォンのアラームなどを利用した工夫
運動
睡眠の改善
ストレス管理
健康的な食生活
などが検討されています。
認知トレーニングでは、患者さん自身が感じる認知症状の改善が報告されています。また、太極拳(Tai Chi)や気功(Qigong)についても、認知症状の改善に役立つ可能性が示されています。(ASCO Publications)
「気のせい」ではありません
がん関連認知機能障害は、患者さんにとって決して些細な問題ではありません。
仕事への復帰や家事、日常生活にも影響することがあります。
今回のASCOの総説が示している重要なポイントは、「がん治療後に頭がぼんやりする」という患者さんの訴えを軽視せず、その人の生活や治療歴、身体・心理状態などを含めて総合的に評価することです。(ASCO Publications)
がん治療が長期化し、治療後も長く生活する患者さんが増えている現在、がんを治すことだけでなく、治療後の生活の質や認知機能を守ることも、これからますます重要になっていくのではないでしょうか。


