2026年の放射性リガンド療法(RLT)とPSMA PET

「診断のための画像」から「治療を最適化する画像」へ
前立腺がんの治療において、PSMA PETを使った画像診断と、PSMAを標的とする放射性リガンド治療は、急速に進歩しています。
2026年のAUA (米国泌尿器科学会)年次総会 で、米国ニューヨーク州で放射線腫瘍医として診療する Steven Finkelstein先生から「Radioligand Therapy in 2026 and the Role of PSMA PET Imaging」という講演がありました。
この講演で特に印象的だったのは、PSMA PETの役割が「治療を始めるための検査」だけではなくなってきているということです。
PSMA PETは「治療の入口」だけではない
これまでPSMA PETは、主に
前立腺がんの転移を調べる
再発した場所を確認する
PSMAを発現している腫瘍かどうかを確認する
放射性リガンド療法の適応を判断する
といった目的で利用されてきました。しかし、これからはそれだけではありません。
PSMA PET → 放射性リガンド療法 → PSMA PET
というように、治療の前後を一つの流れとして考えることが重要になってきます。
治療前に腫瘍の状態を詳しく確認し、治療を行い、その後もう一度画像で腫瘍の変化を確認する。
つまり、PSMA PETが「診断のための画像」から「治療を最適化するための画像」へと役割を広げつつあるのです。
放射性リガンド療法は「最後の治療」から、より早い段階へ
これまでLu-177 PSMA 治療は、ホルモン療法や抗がん剤などを行った後の、比較的治療ラインの後半で使われることが多い治療でした。
しかし、最近の臨床試験によって、その位置づけが変わりつつあります。
特にPSMAfore試験では、抗がん剤をまだ受けていない患者さんに対してLu-177 PSMAを使用することで、病気の進行を遅らせる効果が示されました。
この結果は、「放射性リガンド療法は最後の手段」という考え方から、「より早い段階から検討できる治療」へと考え方が変わってきていることを示しています。
「何回治療するか」から「患者さんに合わせて治療する」へ
放射性リガンド療法では、決められた間隔で一定回数の治療を行う方法が一般的です。
しかし、すべての患者さんが同じように治療に反応するわけではありません。
治療によって腫瘍が大きく減少する患者さんもいれば、あまり反応しない患者さんもいます。
また、治療効果が非常に良好な患者さんに、予定された回数を必ず最後まで続ける必要があるのかという問題もあります。
そのため今後は、腫瘍の量、PSMAの発現、治療後の画像変化、PSAの変化、副作用、患者さんの全身状態などを総合的に判断しながら、
治療を継続するのか、いったん休むのか、治療を変更するのか、再治療するのか、を患者さんごとに決めていく「個別化治療」が重要になると考えられます。
AIによる画像解析にも期待
ここで重要になるのが、PSMA PET画像をどのように評価するかという問題です。
従来は、画像を見て「腫瘍が減った」「病変が少なくなった」と判断することが中心でした。
しかし現在はAIやデジタル技術を利用して、SUVmax、SUVmean、Total Tumor Volume(TTV)、病変数などを定量的に評価する研究が進んでいます。
例えば、治療前と治療2サイクル後のPSMA PETを比較することで、「この患者さんはこのまま治療を続けることで良いのか」を、より早い段階で予測できる可能性があります。
PSAだけでは判断が難しいケースでも、画像から得られる腫瘍量や腫瘍の性質の変化を組み合わせることで、より正確な治療評価ができるようになることが期待されています。
Lu-177の次に来る放射性リガンド療法
放射性リガンド療法の進歩はLu-177だけにとどまりません。
今後は、より強力な放射線を利用するα線核種など、次世代の放射性医薬品の開発も進んでいくと考えられています。
代表的なものとして、Ac-225(アクチニウム225)などがあり、さらにTb-161(テルビウム161)など、Lu-177とは異なる特徴を持つ核種にも注目が集まっています。
つまり、「Lu-177 PSMAがRLTのゴール」ではなく、次世代の放射性リガンド療法へ進んでいる、ということです。
放射性リガンド療法(RLT)単独から「組み合わせる治療」へ
もう一つの大きな方向性が、放射性リガンド療法と他の治療を組み合わせる「Combination Therapy」です。
例えば、放射性リガンド療法+放射線治療(SBRT)、
放射性リガンド療法+ホルモン療法、
放射性リガンド療法+抗がん剤、
放射性リガンド療法+PARP阻害薬
放射性リガンド療法+免疫療法など、さまざまな組み合わせが研究されています。
放射性リガンド療法だけですべての腫瘍を治療するのではなく、患者さんの病気の状態に応じて、局所治療や薬物療法などを組み合わせる。これも今後の重要な方向性になるでしょう。
Precision Theranosticsへ
今回の講演を聞いて改めて感じるのは、これからのTheranosticsは、「PSMA PETを撮って、治療を行う」だけではないということです。患者さんごとに異なる腫瘍の性質をPSMA PETで把握し、治療を行い、その治療反応を再び画像で確認する。
そして、その結果をもとに次の治療を考える。
画像検査 → 治療 → 画像検査 → 治療
このサイクルを繰り返しながら、患者さん一人ひとりに最適な治療を選択していく。
これが、これからのPrecision Theranostics(精密セラノスティクス)の目指す姿の一つではないでしょうか。
2026年の放射性リガンド療法は、単に「新しい放射線治療」という段階から、画像診断、AIによる定量評価、放射線治療、薬物療法を組み合わせながら、患者さんごとに治療を最適化していく時代へ進み始めています。
今後、PSMA PETと放射性リガンド療法がどこまで進化していくのか。
そして、それが実際の患者さんの治療をどのように変えていくのか。
私たちも、日本人患者さんのReal-World Dataを蓄積しながら、その進歩を見つめていきたいと思います。
*2026年7月には米国FDAがPluvictoの適応を 「PSMA陽性の転移性ホルモン感受性前立腺がん」 にも拡大しており、Finkelstein先生自身が8月に米国初の新適応患者を治療しています。つまり、この講演で語られている「放射性リガンド療法をより早期に」という流れは、単なる将来予測ではなく、2026年現在すでに臨床へ動き始めているようです。


