
ごあいさつ
セラノスティクス横浜がオーストラリアでのPSMA標的内用療法(以下、PSMA治療)のサポートを開始してから、2025年4月で7年を迎えました。この間、100名を超える方が治療を受け、治療回数は延べ300回を超えました。
コロナの感染が拡大し、渡航が制限された時期もありましたが、多くの方々が困難を乗り越えてオーストラリアでの治療を受けてこられました。
昨年から日本でも新型コロナが5類に移行し、世界的にも規制が緩和されたことで、渡航治療はよりスムーズに進められるようになっています。さらに、2024年1月からは日本国内でもPSMA PET検査を自費で受けられるようになりました。これにより、まず日本でPSMAの発現を確認してから、海外で治療を受けることが可能となりました。
国内ではPSMA治療に関する治験が進行中で、もう間もなく日本国内でPSMA PET検査とPSMA治療が実施できるようになるのではと期待されています。
一方、世界に目を向けると、2022年3月に米国でルテシウム治療が承認され、同年12月にはヨーロッパでも承認されました。PSMA PET検査は欧米の診療ガイドラインにも組み込まれ、前立腺がん診断のスタンダードになりつつあります。さらにPSMA治療は進化を続けています。新たな核種を用いた検査・治療、内服薬や外照射との併用療法、治療回数・タイミングに関する研究などが次々と報告されています。
診断(ダイアグノスティクス)と治療(セラピー)の融合であるセラノスティクス医療は、前立腺がんにとどまらず、さまざまな疾患に応用可能な医療です。私たちセラノスティクス横浜は、『日本に最先端のセラノスティクス医療を届ける』という使命のもと、努力を続けてまいります。
2025年6月
セラノスティクス横浜
代表理事 三木 健太
*PSMA治療は診断と治療をPSMAという物質を介して融合した医療のひとつで、治療を意味するセラピーと診断を意味するダイアグノスティクスを組み合わせた「セラノスティクス」という新しい概念に基づいています。
セラノスティクス横浜の歩み
2018年
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三木健太(現代表理事)がオーストラリア・パースのナット・レンゾ教授を訪問、セラノスティクス医療について学ぶ
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セラノスティクス横浜のサポートで、日本人初のPSMAPET検査・ルテシウムPSMA治療がオーストラリア・シドニーで開始
2019年
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一般社団法人セラノスティクス横浜設立(初代理事長:車英俊)
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ジェネシスケアと連携し、シドニーとパースへの渡航治療の体制整備
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アクチニウムPSMA治療開始
2020年
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世界的にCOVID-19の感染が拡大、日本でも緊急事態宣言発出
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治療ビザ取得・2週間の隔離等を条件に渡航治療を継続
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第85回日本泌尿器科学会東部総会で発表
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第60回日本核医学会学術大会で発表
2021年
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第61回日本核医学学会学術大会で発表
2022年
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ロシアによるウクライナ侵攻のため、アクチニウムの供給不安定
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第62回日本核医学学会学術大会で発表
2023年
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日本でCOVID-19が5類に変更
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第63回日本核医学学術大会で発表
2024年
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日本国内でPSMA PET検査開始(自費)
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ルテシウムPSMA治療の国内治験開始
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アイコンキャンサーセンターとの連携により、オーストラリア・ブリスベンでPSMA治療開始
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オーストラリアでテルビウムPSMA治療開始
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第64回日本核医学学術大会で発表
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第111回日本泌尿器科学会総会で発表
2025年
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第112回日本泌尿器科学会総会で発表
現在に至る



一般社団法人セラノスティクス横浜 主要メンバー
アクセスマップと所在地
所在地:神奈川県横浜市中区太田町6-73 コーケンキャピタルビル2階
*セラノスティクス横浜のスタッフは平日昼間は一般外来業務を行っております。電話でのお問い合わせはご遠慮ください。
PSMA治療の概要
国際的に注目されているPSMA治療を海外で受けられるようになりました
進行性前立腺がんの治療や、再発転移をおこした前立腺がんに、PSMA(前立腺特異的膜抗原)を用いた診断や治療が注目されています。
前立腺がんは、欧米では10年以上前から男性のがん罹患率1位で、日本でも年々増加しています。前立腺がんは早期に適切に治療をすれば命を脅かすことの少ないがんといわれています。しかし、なかには非常に発育が早く治療をしても再発や転移を起こすがんもあり、残念なことに前立腺がんで命を落とす方は後を絶ちません。
近年、欧米を中心にPSMAという物質に注目が集まっています。これは、前立腺がん細胞に特徴的に発現していることが知られています。この、PSMAを標的にして前立腺がんだけを狙い撃ちにしようというのが、PSMA治療です。その素晴らしい効果が2017年から主要な国際学会で軒並み発表され、世界中で大変な注目を集めています。
また、PSMAを検査に使用する試みもされていて、PSMAを認識する分子に放射線標識を結合させてCTと合わせてスキャンするPSMA PET/CTも新しい検査法として注目されています。例えば、手術後にPSAが上がってきても従来の画像診断ではどこに癌が存在しているのかがわからなかったものが、この方法で早期に発見することができるようになります。早期に転移部位がわかれば、そこに限局的に放射線を照射することで転移部位を治療することが可能になります。
新規ホルモン治療を施してもコントロールできなかった前立腺がんがPSMA治療でほぼ消失したことが報告されています。

これらの、PSMA治療やPSMA PET/CTは、国際的に広がってきていますが、日本には放射性物質の取り扱いに関する法的な制限があり、国内で検査や治療を受けられるようになるまでまだ何年もかかると言われています。
私たちは、この先進的な治療・検査を受けることできない日本の患者さんのための有志の医師グループです。PSMA治療をオーストラリアの病院でスムーズに受けるお手伝いをいたします。
専門医のコメント
前立腺がんに対する新しい標的分子PSMA
前立腺特異膜抗原(PSMA: Prostate Specific Membrane Antigen)は、前立腺細胞の表面に存在するタンパク質です。正常の前立腺細胞に存在していますが、前立腺がんになると、その数が増えます。特に、がんの悪性度が高かったり、転移や再発をした前立腺がん細胞の表面のPSMAは正常な前立腺細胞に比べて10〜100倍もの量が出現していることが知られています。この性質を利用して、前立腺がんの早期の転移部位診断や進行がん治療への応用が世界で始まっています。
1.再発転移の早期診断への応用:PSMA PET/CTスキャン
前立腺がんの手術をすると、腫瘍マーカーはほぼ0になります。放射線治療でもPSAは1以下にまで減少します。このような根治的な治療の後の再発転移は、まずPSAの上昇によって推測されます。ところが、PSAが少し上昇した程度では、どこに再発や転移を生じているのかはわかりません。ある程度、再発や転移が大きくならないと、骨のスキャンやCT検査では見つからないのです。そのため、再発早期には前立腺のあった場所を中心に広く放射線を当て、さらにホルモン治療を数年間行うことが多いです。それにより、せっかく神経温存手術や小線源治療などで体に影響の少ない治療法を選んだのに、再発したとたん副作用の多い治療を行うことになります。もし、再発や転移のごく早期にその部位がわかれば、そこをピンポイントで治療することによって無駄な追加治療を行うことが回避できます。
2.PSMA治療
再発や転移をした進行性の前立腺がんは非常に治療に抵抗性で、有効な治療法がないのが現状です。多くは、ホルモン治療を行いますが、効果は限定的で数年で再発を来します。この状態を去勢抵抗性前立腺がんと呼び、抗がん剤や高価な新薬を用いてもなかなか制御できません。さらに、骨に転移すると、非常に強い痛みが生じて生活の質を著しく低下させます。
このような進行性のがんに対しては、がん細胞のみを攻撃する分子標的治療が注目されています。これは、がん細胞の表面に存在している分子を標的にしてがん細胞だけを狙い撃ちにする治療法で、正常の臓器には影響が少ないのが特徴です。前立腺がん細胞の表面に存在するPSMAを標的にして、PSMAに特異的に結合する物質に放射性物質を組み合わせれば、PSMAが存在する細胞だけに放射線を浴びせることができます。分子標的治療は抗がん剤や抗体を組み合わせる方法が多いのですが、放射性物質を組み合わせることでより強力に癌細胞のみをたたくことが可能となります。この治療がPSMA治療です。
進行性の去勢抵抗性前立腺癌に対するPSMA治療は、2015年にドイツのハイデルベルグ大学で始まりました。まず、ルテチウム177という放射性物質を用いた治療から始まり、2017年に145人の患者さんに実施した結果が報告されました。すべての患者さんが他の治療をほぼすべてやりつくした状態の進行性前立腺がんであったにもかかわらず、実に45%以上の患者さんはPSAが50%以上低下し、33~70%の患者さんは痛みが軽減し、60%の患者さんは生活の質が上がり、74%の患者さんは日常生活の活動性が向上しました。副作用はほとんど見られませんでした。これは、去勢抵抗性前立腺癌に対する従来の治療と比較して驚くべき効果で、さらに安全性が極めて高いため、次世代の治療としてたいへん注目を集めています。
PSMA治療はまだ始まったばかりですが、その有効性と安全性の高さから徐々に実施施設が広がっているところです。臨床データは、権威のある国際学会や雑誌に毎年のように発表され、いずれも高い臨床効果が実証されています。このように、本治療は科学的に見てもたいへん有望な治療法であることは間違いありません。しかし、残念ながら、現在本治療を行っているのはドイツ、オーストラリアなどに限られており、いつ日本で治療が受けられるようになるかは不明です。
今回、本治療がオーストラリアで受けられる道が開かれたことは、すでに治療をし尽くした進行性前立腺がんの患者さんにとっては福音となると思われます。少しでも多くの患者さんが前立腺がんの苦しみから解放されることを願ってやみません。
2018年9月24日
馬車道さくらクリニック院長 車 英俊
2019/11/24
患者会講演(MoFesta 2019)の様子です。
★音声が出ますのでご注意ください。
*モーフェスタ講演後、コロナ禍の影響で現在は治療内容などに変更があります。
*セラノスティクス横浜のスタッフは平日昼間は一般外来業務を行っております。電話でのお問い合わせはご遠慮ください。
PSMAは再発や転移を起こした少量の前立腺がん細胞でも強く発現しています。そのため、このPSMAを認識する物質を用いてPET検査を行うと、ごく早期のがん転移も発見することができます。これが、PSMA PET/CTスキャンです。このPSMA PET/CTを用いれば、早期のPSA再発例で転移部位が確認できたと報告されています。同様の報告はいくつかされていて、今後は治療後の再発転移の部位確定の有用な方法になると思われます。

コラム
リンク集
*治療の日程、治療を受ける場所についてはジェネシスケアチームまたはアイコンが、患者さんのご希望や状況に合わせて手配しております。
*2024年6月現在、PSMA治療はパースとブリスベンで実施しています。