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乳がんにも広がるセラノスティクス―Tb-161とFAPを標的とした新しい放射性リガンド治療

2 日前
読了時間: 5分

乳がんにも広がるセラノスティクス―Tb-161とFAPを標的とした新しい放射性リガンド治療


放射性医薬品を使って「診断」と「治療」を一体化するセラノスティクス(Theranostics)は、前立腺がんを中心に大きく発展してきました。

PSMA PETで腫瘍を確認し、PSMAを標的とする放射性リガンド治療(RLT)につなげる。

この考え方は、現在では前立腺がんだけでなく、さまざまながんへと広がりつつあります。

その一つが乳がんです。


今回、乳がんのセラノスティクスに関連して興味深い研究が報告されました。

「A 68Ga/161Tb-labeled FAP-targeted radioligand for enhanced theranostics: Prolonged tumor retention and metastasis inhibition」

という研究です。


FAPを標的にするという新しい考え方


この研究で注目されているのが、FAP(fibroblast activation protein)です。FAPは、がん細胞そのものというより、がんの周囲に存在するがん関連線維芽細胞(CAF)などに発現します。


がんは、がん細胞だけで成り立っているわけではありません。がん細胞の周囲には、血管や線維芽細胞、免疫細胞などからなる「腫瘍微小環境」が存在し、腫瘍の増殖や浸潤、転移などにも関わっています。

そのため、「がん細胞を直接狙う」のではなく、「がんを支える環境を狙う」という考え方が注目されています。

FAPは、その代表的な標的の一つです。


FAP PETからFAP-RLTへ

FAPを標的とした画像診断では、FAPI PETが研究されています。

FAPIに68Gaなどの放射性核種を組み合わせることで、FAPを発現している病変をPETで画像化できます。

そして、ここからがセラノスティクスの考え方です。

診断では、68Ga-FAPI → PETでFAP陽性病変を確認 

治療では、161Tb-FAPI → FAPを標的として放射線を届ける という組み合わせが考えられます。

つまり、「見える標的を、そのまま治療標的にする」というセラノスティクスです。


今回の研究で工夫されたこと

FAPIを治療に利用する場合、一つの課題となるのが、腫瘍に集まった薬剤がどのくらい長く腫瘍内にとどまるかという点です。

診断だけなら、ある程度短時間で体外へ排泄されても問題にならない場合があります。

しかしRLTでは、放射性核種が腫瘍に長くとどまるほど、腫瘍に与えられる放射線の量を確保しやすくなります。

そこで今回の研究では、FAPを標的とする新しいリガンドFAPI-RuiJ01が開発されました。

このリガンドでは分子構造を工夫することで、腫瘍内での滞留時間を延長することが目指されています。

そして、68Gaを使ったPETによる診断と、161Tbを使った治療が検討されました。


なぜTb-161なのか?

ここで登場するのが、テルビウム-161(^161Tb)です。

161Tbはβ線を放出するだけでなく、オージェ電子も放出することが特徴です。

β線による比較的広い範囲への放射線効果に加えて、非常に短い距離を飛ぶオージェ電子によって、細胞レベルで強いエネルギーを与えることが期待されています。

現在のRLTでは177Luが広く使われていますが、161Tbはその先の核種の一つとして研究が進んでいます。

今回の研究は、FAPという新しい標的と161Tbという次世代核種を組み合わせた点でも興味深い研究です。


乳がんモデルでは転移も抑制


研究では、乳がんのマウスモデルを用いて161Tb-FAPI-RuiJ01の治療効果が調べられました。

その結果、原発腫瘍の増殖が抑制されただけでなく、肺への転移も抑制されました。

さらに、DNAの二本鎖切断などの放射線によるダメージが確認され、腫瘍の微小環境にも変化が認められています。

つまり、今回の研究は単に 「Tb-161を付けたら腫瘍が小さくなった」というだけではありません。

FAPを標的として腫瘍に長くとどまり、そこへ161Tbから放出される放射線を届けるという、分子設計から考えられたtheranostic approachなのです。


まだ臨床治療の段階ではありません


今回の研究では、^68Ga-FAPI-RuiJ01などを用いたPETについて少数の患者で予備的な検討が行われていますが、161Tb-FAPIによる治療効果が乳がん患者で確認されたわけではありません。

治療効果については、主にマウスの乳がんモデルで確認された段階です。

したがって、「乳がん患者にTb-161治療が有効であることが証明された」という段階ではありません。

むしろ、「FAPを標的とする161Tbセラノスティクスが、乳がんを含む固形がんの新しい治療戦略になる可能性が示された」と捉えるのが適切です。


「次のRLT」は核種だけではない


今回の研究を見ていると、これからのセラノスティクスは単純に 177Lu → 161Tb → 225Acと核種を変えていくだけではないことが分かります。

重要なのは、どの標的を狙うのかそして、その標的にどれだけ長く、効率よく放射性核種を届けられるのかということです。

前立腺がんではPSMA。乳がんではHER2、FAP、PSMAなど。


さらに今後は、患者さんの腫瘍の特徴に合わせて標的や核種を選択する時代が来る可能性があります。

これはまさに、「患者ごとの腫瘍特性を捉え、それに合わせて治療を選択する」というPrecision Theranosticsの考え方につながります。


乳がんのセラノスティクスはどこへ向かうのか


乳がんでは、すでにHER2を標的とする放射性医薬品や、FAP、PSMAなどを利用した研究が進んでいます。まだ研究段階のものが多い一方で、「画像で標的を確認する → その標的に放射性核種を届ける → 治療後の反応を評価する」というセラノスティクスの基本的な考え方は、少しずつさまざまながん種へ広がっています。


今回の68Ga/161Tb-FAPI研究は、その流れを象徴する一つの研究と言えるでしょう。

これからの放射性医薬品治療は、「どの核種を使うか」だけではなく、「どの標的を、どのような分子で、どの患者さんに狙うのか」が、ますます重要になっていくのではないでしょうか。

 
 
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